「たきかわ自然ガイド」には昨年は6月に「春の花を描く&調べる」(渡辺修担当)、9月に「秋の実りとそれを利用する動物を観察する」(渡辺展之担当)というテーマで行なっており、今回が3回目です。場所は滝川公園の一画で行ない、26名の参加がありました。調査館では今年からさまざまな野の花を対象にして訪花昆虫相を調べているので(札幌・十勝・美幌)、前半はそれらの調査の結果も使いながら花の形態の特徴や意義などを解説しました。 後半は参加者のみなさんに、花の前に立ってどんな昆虫が訪花するか実際に観察してもらいました。9月とは思えないほど暑かったのですが、天気に恵まれて昆虫の活動も活発で、観察にはなかなかよかったと思います。 |
調査は花を観察してひたすら訪れる昆虫を待ち、ひたすら数えるという(忍耐は要るけど)簡単なものです。
あらかじめ観察可能な範囲を決めて、その中の花に訪れる昆虫とその行動を観察して植物別に記録します。
余裕があれば花に滞在している時間や訪れた花の数も数えます。これを30分・1時間といった単位でおこなって集計をします(今回は20-30分で集計)。最後に範囲の中の花・花序の数を数えて終了です。昆虫は特に採集せずに大まかな分類群で分けました。 |
みなさんの観察結果を持ち寄ったところ、もっともたくさんの昆虫が訪花したのはキンミズヒキ・オオハンゴンソウで、1時間当りに換算すると14-22頭の昆虫が訪花していました。次いでキツリフネ・オオイタドリ(3-8頭)、たまにしか来ないというのがエゾトリカブト・ジャコウソウ(1.3頭)で、ミズヒキ・ゲンノショウコの花には観察時間中に訪花昆虫を見ることはできませんでした。 また、主な昆虫の種類では、エゾトリカブト・ジャコウソウ・キツリフネのような横〜下向きの大型の花にはエゾトラマルハナバチの働きバチが蜜を採りに訪れていました。それより花が小型のキンミズヒキ・オオハンゴンソウにはハナアブやハナバチが花粉を採るために頻繁に訪れていました。どうやら、花の形や着き方と、集まる昆虫の種類には傾向がありそうです。 |
しかし同じ花でも、場所によって訪花する昆虫の種類はかなり変わることがあります。例えば、美幌のオオハンゴンソウにはハナアブのほかに滝川公園では観察されなかったチョウの仲間やエゾオオマルハナバチ・シュレンクマルハナバチ・セイヨウミツバチが観察されました。 このような場所による違いは、花と昆虫の共生関係が特定の種同士の結びつきではない、ということを示すものです。昆虫にしても植物(花)にしてもそこにあるさまざまな「もの」を利用しており、そのせいでいわば「グループ交際」的な関係になっています。特に昆虫にしてみれば、花の蜜や花粉を餌とすることは決まっていますが、決まった花である必要はないので、実際、利用できるものならなんでも利用するという傾向が強いといえます。それに対し、植物の方としては、訪花されることが目的ではなく、効率的で確実な花粉の媒介(送粉)をしてくれる相手に訪花してもらうことが大事になります。 マルハナバチは同じ種類の花を見分けて訪花する習性があることや、長い毛に花粉が着きやすいことなどから、送粉者としては効率的です。ただ、場所や季節によっては個体数が少ないこともあり、そういうときには花同士で優秀な送粉者を取り合うことになり、魅力に欠ける花は訪花されないという事態も起こります。一方、ハナアブの仲間は、効率面ではかなり劣るものの、場所や季節を問わず個体数が多いというメリットがあります。 |
ジャコウソウを訪れたエゾトラマルハナバチ |
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植物としては、@マルハナバチに来てもらうために「高価な」花びらや蜜を用意するか、Aハナアブに合わせた安価なデザインの花に
するか、B両方の昆虫が来れるように中間的な花にするかという3通りの方法が考えられます。@に当てはまるのが、エゾトリカブト
・ジャコウソウ・キツリフネであり、Aに当てはまるのがキンミズヒキ・ヒメジョオン・オオイタドリであり、Bに当てはまるのがオ
オハンゴンソウ・サラシナショウマといえます。 |