北海道の自然紹介「花とマルハナバチ」
ぶん:丹羽真一 え:渡辺展之
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第3回 花との関わり
今回はよく紹介されはじめているマルハナバチと花との特別な関係について、大雪での調査結果も含めて紹介します。
●種によって得意・不得意がある
マルハナバチは種によって異なったタイプの花に訪花する傾向があります。たとえば、亜高山帯ではエゾトラマルハナバチやエゾナガマルハナバチはウコンウツギやムラサキヤシオのような花筒の長い花に、エゾオオやエゾヒメはコヨウラクツツジやウスノキのような小さな花によく行きます。
この傾向は大変にはっきりしています。このような違いには中舌の長さが関わっています。前者のハチたちは中舌が長いので長い花筒からでも容易に蜜を取ることができるのに対し、中舌の短い後者はそのような花を苦手としています。しかしその反対に、中舌の長いハチは小さな花から蜜を取るのが苦手で、中舌の短いハチはこれを得意としています。「大は小を兼ねる」という言葉がありますが、ハチの場合は「長は短を兼ねる」とはなりません。
野外にはいろいろなタイプの花があり、それぞれのマルハナバチが得意とする花があることで共存が可能になっていると言われています。
●ひがし大雪におけるマルハナバチと花の関係
私のコラムでたびたび登場する温泉山(1280m)を例に、マルハナバチと花の関係を見てみましょう(上のグラフ)。亜高山帯の温泉山上部では、多くのツツジ科などの低木植物が生育しています。ツツジ科には、クロウスゴやウスノキのような釣鐘状の小さな花冠(筒)を持つタイプ(スノキ属など)とムラサキヤシオやハクサンシャクナゲのような漏斗状の大きな花冠(筒)を持つタイプ(ツツジ属)があります。前者には中舌の短いエゾオオマルハナバチやエゾヒメがおもな訪花者であるのに対し、後者には中舌の長いエゾトラやエゾナガがかなり訪花しています。
ところで、エゾトラとエゾナガは、ムラサキヤシオとスイカズラ科のウコンウツギが咲いているときだけ山にやってきます。確かではありませんが、おそらくそれ以外の時期にはふもとの糠平温泉周辺でルピナスやクローバーなどの花に頼って暮らしているようです。ムラサキヤシオとウコンウツギは個体数が多く、蜜も豊富で、わざわざ遠征するだけの価値があるのです。そのとき、ついでにコヨウラクツツジやウスノキの花にも行ってもよさそうなものですが、そういうことはほとんどしません。タイムロスになるからでしょう。
一つ興味深いことがあります。それは、ムラサキヤシオと同じような花を付けるハクサンシャクナゲにはエゾナガやエゾトラが来ないということです。この理由として、私は次のような予想をしています。ハクサンシャクナゲは、一つの花が作り出す蜜の量は大変多く、さらに一本の木にはたくさんの花がつきます(ただしほぼ1年おきの豊凶がある)。これだけ見れば、とても豊かな感じがしますが、実は個体数がとても少ないのです。そのため、たいした収穫が期待できないのでわざわざふもとからやって来ないという予想です。実際に、温泉街のホテルの前庭に植えられたハクサンシャクナゲにはたくさんのエゾトラとエゾナガが来ています。ムラサキヤシオとウコンウツギはほぼ同じ時期に咲くのですが、それらが完全に咲き終わってからしばらくしてハクサンシャクナゲはようやく咲き始めるのです。もし、これらと同じ時期に咲くのであればエゾトラとエゾナガが訪花したことでしょう。
温泉山のハクサンシャクナゲにはエゾトラとエゾナガが来ない代わりに、舌の短いマルハナバチがこれらの花にやってきます。舌が短いといっても潜在的には蜜を取ることはできるのです。舌の長いハチのようには効率的ではないということなのです。同じように考えれば、ムラサキヤシオやウコンウツギも個体数が少なければ、やっぱり舌の短いマルハナバチが訪花しているのではないかと思えてくるのです。
思いがけず、こんなところからマルハナバチどうしの種間関係を垣間見たような気がしました。
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